アルツハイマーの基礎研究を通してお薬の開発につなげるのが、私の研究の主要な目的です。
約20
年前、私が東京大学に入ったころは、アルツハイマー認知症の原因はほとんど解明されていませんでしたが、今は「神経細胞に物質がたまって引き起こされる」と言うことが分かってきました。私はこの病気のメカニズムを調べています。
高齢化社会が進むとともに、アルツハイマーの患者数が増えています。
政府の計画でも、癌と認知症がこれから重要だとしています。80
歳を超えると、予備軍も含め30%くらいが、この二つの病気にかかる可能性が出てきます。そしてその比率は年齢とともに加速度的に増えていきます。
アメリカでは、アルツハイマー病はパンデミックディジーズ(世界規模で爆発的に流行している病気)に指定されています。バラク・オバマ大統領は、2020
年までにアルツハイマー病を撲滅するために、アルツハイマー病国家プロジェクト法(National Alzheimer’ s Project
Act(NAPA)))に署名しました。
フランスも3 年前にアルツハイマー撲滅を国家計画に定めています。フランスの場合、基礎研究だけでなく介護や社会システムにも国家予算を落としているのが特徴です。
日本は、欧米に比べるとまだ予算は小さくて、アメリカの1 割程度ですが、認知症だけでなく長寿社会に向けての予算も増えています。
私たちも、厚生労働省、文部科学省、経済産業省からお金をいただいて、今までできなかった臨床観察研究を始めています。いろんな病院の先生と共同で多くの患者さんの観察研究を始めているのです。
また、東大病院に先端の研究拠点を作って、アルツハイマー病の治験薬を試すプロジェクトプランも今年から始まりました。
富田氏は、高齢化社会が進展する中、日本の未来を左右しかねない病気克服の最前線で、研究に取り組んでいるのだ。
アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドタンパク(ある特定の構造を持つ水に溶けない繊維状のタンパク質)がたまって神経細胞に悪さをすることで起こります。最終的に神経細胞を殺していく。これが病気発症のメカニズムです。
我々はこのアミロイドタンパクを無くすような方向に持っていく研究をしています。そのお薬を創るのが最大の目的です。
すでに、人を使って治験研究も始まっています。脳からアミロイドタンパクを無くする研究は徐々に達成されつつあるのです。
でも、人に与える上では副作用がないのが一番重要です。それがわかるには長ければ5 年はかかるかもしれない。アルツハイマーと言う病気の進行は、それくらい遅いのです。
アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドタンパク(ある特定の構造を持つ水に溶けない繊維状のタンパク質)がたまって神経細胞に悪さをすることで起こります。最終的に神経細胞を殺していく。これが病気発症のメカニズムです。
我々はこのアミロイドタンパクを無くすような方向に持っていく研究をしています。そのお薬を創るのが最大の目的です。
すでに、人を使って治験研究も始まっています。脳からアミロイドタンパクを無くする研究は徐々に達成されつつあるのです。
でも、人に与える上では副作用がないのが一番重要です。それがわかるには長ければ5 年はかかるかもしれない。アルツハイマーと言う病気の進行は、それくらい遅いのです。
一つの病気を克服するのは、それくらい長期的な、大きなテーマなのだ。
一つ一つ丁寧に話す富田氏には、長くアルツハイマー病と取り組んでいたという研究者の自信と、決意がうかがえる。
創薬のプロセスで難しいのは患者さんの病気の部分にお薬を届けるということです。脳はブラッドブレインバリアというバリアで守られていて、ふつうの薬を作ってもなかなか脳には入らないのです。そのハードルを越えるのに5
年くらいかかりました。でも何とか届けることができる薬ができたのです。
でも、ここまで来ても、アルツハイマーは治るかと言われれば難しいと答えざるをえません。病気になった時点で神経細胞はダメージを受けています。失われた細胞、つまり記憶は帰ってこないのです。でも、ダメージをそれ以上受けないように止めることはできるようになるでしょう。
我々は先制医療という言葉を使っています。それは「あなたは10 年後20
年後にアルツハイマーになる、だからこういうお薬を今から飲んでください」というような治療です。病気になってからよりも、予防の方が重要だと思っています。
もちろん、病気には遺伝リスクは存在します。でも、遺伝リスクが高くても、病気にならない人もいるのです。アメリカでは、その研究をしている人もいます。
富田氏は常に「薬」ではなく、「お薬」と丁寧に言う。そこには、ある「思い」が込められている。それは研究者としての方向性をはっきりと示す、重要な「思い」なのだ。
アルツハイマーとの出会いは、大学2 年次、専門振り分けの時に医学部脳神経病院の井原康夫先生に出会ったのがきっかけです。もう退官されましたが、井原先生は90
年代初頭、まだほとんど手がけられていなかったアルツハイマーの研究を始められたお一人です。
その頃、私は神経に興味があったのですが、多くの先生が話される電気生理の話が、私には響かなかった。それを知ってどうするんだ、という感覚でした。そんな中で神経の病気の研究の話は一番面白かったのです。
もう一つの転機は留学です。研究室のスタッフとして7~8 年務めて、それからアメリカに留学しました。その頃は基礎研究も病気の研究も面白いと両方眺めていたのです。
セントルイスのワシントン大学に入学し、発生学の先生につきました。病気には興味のない先生でしたが、知見を広げるためにはいいかなと思った。でも1、2
か月した時になんか違うと思うようになったのです。
その先生の研究室の研究を見て「何でそれをやってるの」という問いを発している自分に気が付いたのです。「これを解明することが面白い」と興味本位で研究している人に向かって「何で?」と言っている自分に気が付いたのです。
私は、純粋に「これを知りたい」という目的だけでは、研究できない。病気を治す、という目的があって、初めて研究に打ち込むことが出来るということを強く意識しました。
留学から帰ってからは、「病気を治す」という一点に向かって研究を続けてきたのです。
純粋の「知」を求める研究をしているのではなく、「病気を治す」ために研究をしている富田氏。最終目標は、アルツハイマーという病気を克服できる新薬の開発。「お薬」という言葉には、そんな重たい思いが込められていたのだ。